1章.映画館”NSTINDANCETON”の復興
時はエンターテイメント全盛の時代。
サーカスに、アミューズメントパーク、演劇にテレビ番組。
人々は常に娯楽を求め、享楽にふけりたいという飽くなき欲求に突き動かされていた。
たくさんのエンターテイメント達がしのぎを削り合っている中、一際大きな存在感を放つ映画館が存在した。
その映画館の名は「NSTINDANCETON」
ヒューマンドラマにコメディ、ミュージカルにラブロマンス。
誰もが胸踊らす不朽の名作から知る人ぞ知る隠れた傑作まで。
古今東西世界各地のありとあらゆる映画を上映している超一流の映画館のことである。
威風堂々とそびえ立つその姿はまさにエンターテイメント時代の象徴というべきもので、人々の憧憬を一身に集めていた。
映画館には、絶えず世界中の国から人々が訪れ、帰っていくその顔は皆、一様にほころんでいたという。
映画館を経営しているのは、歴史上の名だたるエンターテイナー達を生み出してきた由緒正しき名家DANCETON家だ。
一説によると、かの有名なウォルト氏や、チャーリー氏もこのDANCETON家出身だったと言われている。
しかし、その実態の多くは謎に包まれており、未だに詳しいことは明らかになっていない。
一つ確かなのは、DANCETON家はこの映画館で人々を笑顔にすることに対して、強い責任感と使命感、そして誇りを抱いていたということだけだ。
さて、時は移り西暦2XXX年。
かつての賑わいはどこへやら。世界は今までにないほど無関心、無感情の霧に覆われていた。誰も彼も考えるのは自分のことばかり。
街を行き交うエゴとエゴ。かつて人々の胸に当たり前のように刻まれていた”エンターテイメント”という文字は、すっかり霧消してしまっていた。
長年世界中を楽しませてきたあの映画館も、しだいに忘れ去られていき、誰もその存在を思い出せなくなっていった。
今や当時の圧倒的な輝きは色あせ、壁ははがれ落ち、建物は崩れかけ、面影は影も形もなくなってしまったのだ。
何という悲劇だろうか。
しかし、そんな中、この映画館を受け継ごうとする者達が現れた。
DANCETON家生き残りの4人の兄妹、長男チャーリー・次男キートン・三男ロビン・長女ハロルドだ。
幼い頃からエンターテイメントに触れその魅力に取り憑かれていた彼らにとって、この時代は余りにも嘆かわしく、憂うべきものであった。
そして何よりも彼らを突き動かし団結させたのは、彼らの内側を流れるDANCETON家の情熱の血に他ならない。
こんな時代だからこそ映画が必要なのだ。
そう決意した兄妹達は先代達の「人々を楽しませたい」という気持ちを継ぐことに決めたのであった。
かくして、この忙しい街に映画館「NSTINDANCETON」を再建するという4人兄妹のにぎやかで愉快な物語が幕を開けたのである。
2章.ロビンの旅立ち
さて、人々を楽しませるために映画館を営み始めた4人の兄弟。
しかし、これでトントン拍子にいくほど人生は甘くは無いようだ。
とある日、いつも映写機の横に並べられてあるはずの大切な映画たちが何者かによって盗まれてしまったのである。
あろうことか盗まれた作品はどれもNSTINDANCETONの根幹をなす大事な作品ばかりだった。
これからという矢先に起きた大事件に4人は頭を抱えた。
絶望しかけたその時、次男のキートンが映写機に引っかかっている一枚の封筒に気がついた。
封筒の中には一枚の紙切れと一台の携帯電話、そして巨大な地図とコンパスが入っており、紙切れには無機質な字でこう書かれていた。
「お前たちの大切な映画はいただいた。返して欲しければ、私の指令に従うのだ。私とのやり取りはそこにある携帯電話でおこなう。
ただし、必ず一人で来るんだ。約束を破れば映画はすぐさま海の藻屑だ。
では、待っているぞ。フハハハハハハ!
怪盗より」
1番下の空白には、差出人と思しきハットを被った人物のシルエットが描かれていた。
全員がその手紙を読み終えるか終えないかの時に真っ先に声をあげたのは3男のロビンだった。
「俺が映画を取り戻す!」
他の3人が止める暇もなく、ロビンはそそくさと旅に出かける準備を始めた。
ロビンは一度言い出したらテコでも動かないのだ。
確かに、ロビンは兄弟の誰よりも怖いもの知らずで行動力があり、映画を取り戻す役目をこなすのに適任のように思えた。
そこで3人は思い切って映画を取り戻す役目をロビンに託し、その間に新しい映画作りを進めることに決めたのだった。
長男のチャーリーは1つだけロビンに約束をさせた。
それは、旅中に起こった出来事を、日記として必ず記録に残すこと。
「ロビンの冒険はきっと、世の中の人を楽しませるに違いない!」
ロビンは、任せとけと胸を叩いて外へ飛び出していった。
こうして、兄弟たちと映画館を救うために映画を取り戻すロビンの長く険しい旅が始まったのだった。
どうなることやら・・・